あしたの結び目FICTIONAL STORY

朝の光が差す家。黄色い布、青いコップ、赤い長靴、椅子が暮らしの中に残っている
II / OUR HOME寝室から台所へ。いつもの家に、小さな記憶が残っている。

MEMORY ROOM / OUR HOME

この家には、
小さかったあなたが、
まだいる。

黄色いガーゼ、青いコップ、赤い長靴、椅子の横木。
家のあちこちに、覚えていることがある。

4 PLACES / 4 MEMORIES

好きな場所から、どうぞ。

MEMORY ROOM / FOUR TRACES

好きな場所から。

写真のなかの、気になるものをひとつ。 その日にあったことが、ひらきます。

朝の光が入る家の一室。左下の寝具に黄色い布、中央奥に赤い長靴、右の食卓に青いコップ、右下に木の椅子がある
THE ROOM, AS IT REMAINS写真の中の番号は、出来事の順番ではありません。

寝室

黄色いガーゼ

あなたがしていたこと
洗った直後は、右手で同じ角を二度探した。角が手の中へ戻ると、目を閉じた。
そばで覚えていること
眠ったあと、わたしは指を抜くまで二十分待った。ガーゼを覚えていないあなたに、いつか話したかったこと。
家の小さな話を、続けて読む
  • 寝室

    黄色いガーゼ

    洗った直後は、右手で同じ角を二度探した。角が手の中へ戻ると、目を閉じた。

    眠ったあと、わたしは指を抜くまで二十分待った。ガーゼを覚えていないあなたに、いつか話したかったこと。

  • 台所

    青いコップ

    取っ手を右へ向けても、半回転させて奥へ戻し、両手で包んだ。縁の歯形は二つ。

    わたしは「こぼすよ」と言いかけて、代わりに布巾を手元へ寄せた。あなたは一滴もこぼさなかった。

  • 玄関

    赤い長靴

    濡れた長靴を逆さにすると、左からだけ丸い小石が落ちた。捨てようとすると、黙って手のひらを開いた。

    小石をその手へ戻し、理由は聞かなかった。次の雨の日も、左の長靴からひとつ出てきた。

  • 食卓

    椅子の横木

    園の話を聞くと、返事より先に左のかかとが横木を三度こすった。箸をそろえてから話し始めた。

    わたしは二度目の質問をやめ、味噌汁の椀を置いた。少し待つと、あなたは自分の順番で話し始めた。

WHEN WE REMEMBER TOGETHER

覚えていることが、少しずつ違っていてもいい。

あなたは黄色いガーゼを覚えていない。わたしは小石の理由を知らない。 同じ食卓にいても、見ていたものは少しずつ違う。